総動員で税収上げ課題解決、企業の世界需要取り込み支援
自民党の西村康稔衆院議員(元経済産業相、元経済再生担当相)は若手時代から政策分野で引っ張りだこだった。党政調や各種議員連盟で、政策の取りまとめの要である事務局長職をいくつも務め、「ミスター事務局長」の異名を取った。複数の閣僚経験を経て現在、まさに「ミスター成長戦略」のポジションを占める。インタビューでは、立て板に水のように解説がなされた。
近年は、未曽有の疫病禍となった新型コロナウイルス感染症対策の担当閣僚として連日記者会見を開き、精力的に情報発信し、質疑に答えていたことが記憶に新しい。首相候補の一角として歩みを進める。

聞き手:政策ニュース.jp編集部
インタビューは2025年6月25日に行いました
名目3.5~4.0%成長
― 官僚、国会議員、そして閣僚として、これまで一貫して経済、産業政策に取り組んできた。
(西村康稔氏)2012年に発足した第2次安倍政権以降、ずっと経済成長戦略「アベノミクス」を担当させていただいた。税収と雇用はいずれも増え、一定の成果を上げた。ただ、現在の日本が抱える課題を解決するため、多くのニーズに応えるには、これまで以上の経済成長が必要だ。
例えば、医療、福祉分野では、病院の6~7割が赤字という状況にある。社会保障では年金改革が待ったなしだ。コメ問題に象徴されるように、改革によって強い農業をつくることも急務。中小企業については、価格転嫁しやすいよう制度改善を促進し、技術を磨くことによって、生産性が上がるようにしていきたい。
こうした取り組みの実行に向け、財源を確保するために税収をさらに上げようとすると、やはり一定の経済成長が必要となる。つまり徹底した成長戦略の断行が不可欠だ。例えば規制緩和のための国家戦略特区の推進。他にも、さまざまな規制改革が必要なことは言うまでもない。深刻な人手不足に対応するには、自動運転の実用化をもっと加速すべきだ。 経済安全保障分野では、これまで重点的に取り組んできた半導体や蓄電池の生産強化、レアアースなど重要鉱物の確保。日本中心の堅固なサプライチェーンをつくっていきたい。
― 目指すべき経済成長の具体的な目安はあるのか。
(西村氏)以上のような政策を打っていく中で、どんどん新しい企業が出てきてほしい。日本経済研究センターが6月に公表した「2075年までの50年長期経済予測」に盛り込まれていた通り、AIやロボットを徹底活用することで、日本は成長路線の軌道に乗ることができる。実質経済成長率を2.0%として、これにインフレ率を入れて名目3.5~4.0%の成長ができれば、税収は上がってくる。
まさに、政府の経済財政諮問会議の有識者セッションで今春、東大の渡辺努教授が提示して注目を集めたように、インフレ率2.0%をキープできれば、税収は10年間で約90兆円増える。つまり、年間9兆円程度を使うことができる。緩やかなインフレの実現により税収を確保し、足下の課題を解決、成長軌道につながるというわけだ。
AIとロボットで徹底的行革
― 税収が上がれば政府の歳出を賄う財源も増えることになる。
(西村氏)これと合わせ、不断の改革とあらゆる成長戦略を総動員すれば、消費税率10%のままで社会保障費の伸びも賄うことができ、子育ての負担も下げることができる。人材にも積極的に投資できる。物事を成し遂げようとすると、資源の乏しい我が国では教育にどれだけお金を掛けられるかにつながる。これは当然、博士までを含めた理系人材の育成も力を入れなければならない。短期的にすぐやるべきことと、10~20年後を視野に入れなければならないことに分けて考える必要があるが、いずれにせよ、徹底した成長路線の政策、そのための規制改革特区の活用推進などをぜひ実行していきたい。
― 日本は少子高齢化に伴う人手不足が深刻化しつつある。
(西村氏)AI、ロボットを使うことで、行政も徹底的に改革できる。 イーロン・マスクがSNSのツイッター(現X)を買収したとき、ツイッターには7,800人の社員がいた。AIを積極活用したことで、それが今や3,000人だ。これを見れば分かるように、国も地方もAI導入を加速させれば、人手不足を乗り越え、生産性を上げ、行政コストをかなり下げることができる。国民負担を抑制する意味でも、こうした行政改革は重要だ。
また、民間部門でも余剰と言われる人材を「リスキリング」でAI、ロボットを使いこなすようになれば、所得も上がるし、経済成長に大きく寄与する。AI、ロボティクスの導入は成長戦略の肝であり、ぜひ加速させたい。
レアアースや電池にも力
― 経済成長戦略について具体的な産業ごとに知りたい。
(西村氏)AIの事業化は、例えばソフトバンクや楽天が目指しているような大規模モデルだけでなく、スタートアップやベンチャーなどが特定の分野に特化して取り組む意義も大きい。それらを束ねていけば、社会全体においては大規模モデルに対抗できるからだ。例えば、ロボティクスのデータに的を絞ったモデルなど、さまざまなジャンルごとに開発されている。こうした動きを応援していきたい。
それから、重要鉱物、レアアースをしっかり確保しながら、電池、バッテリーも力を入れている。 リチウムイオン電池は中国に席巻されてしまったことは事実。しかし、電解質に液体を使わず、安全性が高いといった利点がある「全固体電池」を含め、経済安全保障や脱炭素(GX)などさまざまな関連予算を活用し、日本がもう一度、世界をリードできるようになることを目指す。
― 電力については、どのように考えるか。
(西村氏)生成AIの活用が進むと、電力消費が増え、必要なエネルギーが増大する。 原子力の活用は重要であり、次世代の原子力について実用化を目指している。政府は6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定した。核融合発電について、ようやくスケジュールを前倒しして、2030年代の発電実証を目指す方針を出した。現在は基礎研究の段階であり、内閣府や文部科学省が担当している。しかし、実用化が近づいてきていることを考えると、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が関与するなど、産業化の支援体制をつくることが大事だ。こういう夢のある技術を進めていきたい。
― ほかに重要な分野は。
(西村氏)半導体産業については、2024年の経済対策で「AI・半導体産業基盤強化フレーム」ができた。法律により、2030年度までの7年間に10兆円以上の公的支援を行うこととなった。日本政府の支援の下で次世代半導体(2nm世代など)の国内製造を目指す企業「ラピダス」(東京)は、近く2nmの試作品を出してくる見通しだ。量産に向け、体制を整えていく段階となった。
インド太平洋とグローバルサウス
― さまざまな政策を進めるため、自身はどのように活動していくか。
(西村氏)現在、次世代エネルギー技術の促進を目指す「革新エネルギー議員連盟」の会長を務めている。バッテリー議連では会長代行、半導体議連と自動車議連では、いずれも会長代理だ。このように、日本の今後を担う中心的な産業の議連の中核メンバーとして日本の経済成長を加速させるため、引き続き精力的に活動していく。
また、5月に自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の副本部長に就任した。この本部は、故安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想を継承、発展させることを目的としている。同構想は日本が提案したビジョンとしては世界で最も受け入れられたものの一つであり、トランプ米大統領も賛同した。この地域での航行の自由や安全の確保に加え、投資や貿易の拡大を目指す。
― インド太平洋のみならず、グローバルサウスの取り込みも重要だ。
(西村氏)アフリカや南米まで広げることも視野に入れ、重要鉱物、レアアースなどの資源確保にも努力したい。経済、安全保障の両分野で連携を進める方針だ。私が経済産業相を務めていた時、グローバルサウスに関する予算を毎年1,500億円ほど使えるように確保した。経済成長が期待されるインド太平洋の需要をしっかり取り込めるよう、日本企業の展開を支援していく。
志を同じくする仲間と政策磨く
― かつて党総裁選にも立候補している。今後の政治活動はどのように進めるのか。
(西村氏)現在は、さまざまな議連で多彩なメンバーと幅広く活動している。また、2009年の総裁選に立候補した後、派閥に関係なく、有志による勉強会「戦略研究会」を国会開会中に原則毎週、開催している。途中、新型コロナウイルス感染症の流行で休止した時期もあるが、それを除いても十数年間続けてきたことになる。経済に限らず安全保障などの分野などを含め、第一線で活躍する講師を招いてきた。
この勉強会は、毎回20~30人の国会議員が参加している。こうした派閥に関係なく志を同じくできるメンバーと連携し、まずは政策を磨き、練り上げていきたい。特に経済政策、外交でメッセージを発信することが重要だ。故安倍総理の思想は、保守の考えに基づきながら、同時に改革も両方実行していくものだ。安倍さんには、リアリストの面があった。そうした思い、姿勢をしっかりと受け継ぎながら、日本のため、国益のためにビジョンを練り上げ実行していきたい。
関連リンク
・西村やすとし オフィシャルサイト – プロフィール、政策、活動報告など
・衆議院議員 西村 康稔(にしむら やすとし) – 経歴、関連ニュースなど。自民党