インタビュー

政策インタビュー:船田元・自民党衆院議員総会長に聞く「少数与党の石破内閣」

国会答弁は頑固さ抑え反論がまん「石破首相は偉いです」
政治不信で党内批判回避、少数ゆえ継続する「塞翁が馬」

船田元衆院議員(裁判官弾劾裁判所裁判長、元経済企画庁長官)は衆院当選14回を数え、期数では石破茂首相(13回)の先輩となる数少ない自民党議員だ。ちなみに、他は15回の麻生太郎氏、14回の額賀福志郎氏(衆院議長就任で会派離脱)だけである。さらに船田氏は31年前の羽田政権で新生党議員として少数与党を経験。衆院で与党過半数を失った石破政権には、不可欠な羅針盤のごとき存在だ。

当時と現在を瞬時に行き来しつつ、政局と政策の相関関係をクリアに読み解く語り口は、大ベテランとなった今も「自民党のプリンス」の呼び名を彷彿とさせる。自公政権が安定を取り戻そうとすれば、連立を拡大するか、さもなくば衆院解散・総選挙で過半数を回復するしかない。政界の攻防は変数があまりに多く、定石が通じずにプレーヤーは暗中模索する。永遠のプリンスが本領を発揮するのは、ここからである。

船田元衆院議員

※聞き手:政策ニュース.jp編集部
インタビューは2025年5月13日に実施しました

気色ばむのは不当な批判に毅然と対応する片鱗

― 1994年に羽田内閣でも少数与党を経験した。

(船田元氏)当時は本当にひどく、やることなすこと全部について悲哀を味わい、羽田内閣は約60日間で終わった。

― 石破政権は2024年10月の衆院選敗北で少数与党に陥ったが、これまでの評価は。

(船田氏)少数与党になると、野党に対し、大変気を遣い、妥協し、協力を得なければならない。 石破政権は、それをかなり丁寧にやってきた。石破首相は本当によく頑張っている。予算委員会などの答弁で時々、気色ばんでいるが、それは彼の昔からの性格。筋を曲げず、言われなき批判には毅然と立ち向かおうとする。そうした片鱗の現れだ。

頑固だったり、反論しすぎたりするのは事実だが、そうした気持ちをグッと抑えて懸命に我慢している。きちんと聞く耳を持って答えるように努力しており、そういう点では偉いと思う。

「石破」は「羽田」より恵まれている

― 羽田、石破両内閣を比べるとどうか。

(船田氏)同じ少数与党でも、石破内閣は羽田内閣よりずっと恵まれている。石破政権には、さまざまな政策で協力してくれる野党が一つ、二つ存在しており、いわば「救いの神」がいるためだ。羽田内閣は協力的な野党がなかった。当時野党だった自民党は「一日でも早く羽田内閣を潰せ」という方針で、めちゃくちゃに攻撃された。

石破内閣は味方してくれる野党をつくるよう努力してきたので、何とか25年度予算を24年度内に成立させた。重要法案についても成立に向け懸命に腐心してきた。ただ、今後は通常国会の会期末を控え、仮に内閣不信任決議案が提出されたとき、どこかの野党と組んで否決できるのかという大きな課題がある。

年収の壁とガソリン税は難航

― 石破政権のこれまで8カ月間で、うまくいかなかったと思うことは。

(船田氏)「年収103万円の壁」を178万円まで引き上げるという国民民主党の政策への対応だ。与党は152万円まで壁を動かそうとしたが、国民民主の妥協を得られなかった。ただ、178万円にすれば約8兆円の財源を要し、赤字国債で賄うとしても、毎年なら財政健全化に大きなマイナスだ。よって、自公政権としては譲れないラインだったと理解している。

また、ガソリン税について、トリガー条項の凍結解除、暫定税率廃止といった問題があった。自公国3党で一応の合意をしたが、いつから始めるかは結論が出ていない。石破首相は4月、今年の8月以降は石油の元売りに10円分を補助して、ガソリン価格を結果として10円程度下げると発表した。しかし、国民民主の対応は未知数という状況だ。

「背に腹は代えられぬ」だった高校無償化

― では、うまくいったと言えるのは何か。

(船田氏)一応、日本維新の会との所得制限なき高校無償化の合意だろう。わが党には、かなり無理筋の内容だったが、国民民主の求めた年収の壁の件と比べると必要な財源がかなり少ない。年間6000億円などとされ、財源の面では乗れない話ではなかった。言い方が良くないかもしれないが「安くついた」わけだ。

ただ、私立高校にそれだけお金を出すと、学費の面で公立高と大きな差がなくなり、私立高に生徒が流れるとして公立高の存続を危ぶむ声がある。所得制限がなく「ばらまき」批判が出ていることも重々承知している。しかし、維新の賛成がなければ年度内の予算成立はなかった。「背に腹は代えられない」とするぎりぎりの判断で、方向性としては間違いとまでは言えないだろう。

故渡辺美智雄・元通産相の座右の銘

― 石破政権は自民党内基盤が弱いとされる。

(船田氏)仮に、自公が衆院で多数を占めていれば、もう石破内閣は既に潰れていたかもしれない。少数与党に陥ったことが、党内基盤の弱い石破内閣を、逆に長生きさせている。

― 理由を具体的に聞きたい。

(船田氏)噛み砕いて話すのは難しいが、24年の党総裁選で勝利した石破首相を支持したり、ブレーンと呼ばれたりする議員は、安倍政権時は非主流派とされてきた人だ。私も非主流だった。昨年の衆院選で自民党が敗北したのは政治不信の影響が大きく、その原因である政治資金不記載問題には、旧安倍派の国会議員の皆さんが多く関係していた。よって、石破内閣が少数与党に転落しても、旧安倍派の皆さんは批判しにくい立場にいる。このため石破内閣への非難はかなり抑えられることになった。

つまり、石破首相にとっては「こんなに苦労しているのは、旧安倍派の皆さんの政治資金問題があったからだ」ということになる。石破首相には気の毒な言い方で申し訳ないが、この状況があり、少数与党であることが、生きながらえる原動力になっているわけだ。私と同じ栃木県が地元で、中選挙区時代は同じ選挙区でもあった故渡辺美智雄・元通商産業相の座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。まさにその通りであり、何がどう作用するかは本当に分からない。

今後の課題は内閣不信決議案対応

― 国会は会期延長がなければ6月に会期末を迎える。

(船田氏)内閣不信任決議案が提出されるのかどうかという問題がある。出ないのが最も良いが、国会閉幕後には参院選があり、立憲民主党が対決姿勢を強めて他の野党に提出で同調を呼びかけることは大いにある。自民党は、そうさせまいとして維新や国民民主と話し合いを続けてきた。内閣不信任案についても、両党か、どちらかには「同調しないでほしい」と求めなければならない。

そのため、例えば、国民民主に対しては、ガソリン税や年収の壁の問題を継続して協議していくことが材料となる。維新については、大学の学費負担軽減や給食無償化などを前向きに議論することが非常に大切な時期になる。

驚かせることが専売特許の小沢一郎氏

― 羽田内閣当時、本当に大変だったという話は。

(船田氏)羽田内閣が少数与党になったのは、その前の細川内閣で連立与党だった社会党と新党さきがけが与党から離脱し、野党の自民党と組んでしまったためだ。羽田内閣与党の新生党の代表幹事だった小沢一郎衆院議員(現立憲民主党)が中心となって新しい会派をつくろうとした際、社会党にそのことがよく伝わっていなかったことが大きな原因だった。つまり、新会派結成を突然公表した形になり、社会党は「聞いていない」と反発した。本来はもっと慎重にやるべきことだった。

私たちも力不足だったと思うが、小沢氏が根回しをあまり得意とせず、むしろ驚かせることが専売特許のような方だったからだろう。調整力の重要性をつくづく感じた。

政治家、党職員、官僚による連携

― 現在の自公政権は、根回しは比較的うまく行っていると。

(船田氏)自公政権は一生懸命に根回しすることが専売特許のようなものだ。野党の皆さんとも丁寧に議論してきた。自公政権では国会議員以外に官僚が政府と与党の間で調整し、物事が進む。実は、官僚は根回しの達人だ。2009~12年の民主党政権は「脱官僚」を唱えたため、官僚にとっては「じゃあ、調整するのもやめよう」となった面がある。官僚の根回しをうまく使えなかったことが、民主党政権が3年間で終わった原因の一つであり、誤りだったと思う。

また、自民党職員は党内調整によく動いてくれる。政治家、党職員、官僚の3者が連携している。自民党が長期に政権を担うことができている理由は、ここにしかないと言ってもいいほどだ。

与党過半数割れは憲法改正にも悲哀

― 衆院憲法審査会の会長代行と与党筆頭幹事を務めているが、自民党の党是である憲法改正の進捗は。

(船田氏)改正原案の作成に至っていない。少数与党になる前は、大災害時など緊急事態における議員任期の延長が、改正項目の一つとして条文化の一歩手前まで来ていた。しかし少数与党の悲哀で、衆院憲法審査会長ポストが自民から立憲に移り、条文案や骨子案を議論の俎上に乗せることができていない。できれば今国会中に骨子案を審査会で配布し、説明させてもらいたい。一方、憲法改正原案を発議した場合に国会内でつくる超党派の広報協議会の中身は、国民投票の際のテレビCMの扱いなど、かなり詰まってきた。

― 消費者問題に長く取り組んでいる。

(船田氏)党消費者問題調査会長を10年務めている。消費者契約法、公益通報者保護法の改正などに取り組んできた。最近は食品ロス削減でフードバンクへの補助充実を考えている。外食時の食べ残しについて、例えばマル適マークのような形で、持ち帰りOKの飲食店を認定できないかなど検討中だ。

関連リンク

船田はじめオフィシャルサイト – プロフィール、政策提言など
衆議院議員 船田 元(ふなだ はじめ) – 経歴、関連ニュースなど。自民党

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